今日も皆さんと一緒に発達障害等の関する学びや情報交換の場所となることを願って投稿させて頂きます。

今日のトピックは「発達障害」についてです。

発達障害は、生まれつき脳の一部の機能に障害があることがわかっています。脳の機能の違いが、行動に影響しているのです。

さて、発達障害の脳は一体どうなっているのでしょうか?

この記事を読まなければ、発達障害の行動を理解するのが大変になることでしょう。

この記事を読むことで、なるほど!と脳機能からみた発達障害と行動の不思議が分かる一歩になります。

発達障害の脳の機能障害とは?

発達障害とは、「自閉症、アスペルガー障害その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害その他これに類する脳機能の障害であってその症状が通常低年齢において発現するものとして政令に定めるもの」(発達障害者支援法)と定義されています。

「脳機能の障害」と表現されているように、脳に病変や外傷があるような、器質的な病気ではありません。脳の各部位の機能や神経伝達回路がうまく機能していない状態ということです。

具体的にどこの部位がどうなっているかは、今の医学においてもはっきりとは分かっていません。

しかし、脳科学的に発達障害と脳の特定部位や神経伝達物質の働きについて分かってきたこともあります。

まだまだ研究段階ではありますが、ここでは解明されてきたASDとADHDの行動特性と脳機能の関連について紹介します。

自閉症スペクトラム(ASD)の脳

ASDは

  • 対人関係の障害
  • コミュニケーションの障害
  • 興味や行動のこだわり

といった特徴があります。

これらの行動の理由となる、ASDの具体的な脳の部位と機能をみていきましょう!

側頭葉の機能が低い

側頭葉の中にある上側頭回、紡錘状回を含む神経回路には、人の顔の認識、相手の表情から気持ちを推測する機能があります。特に紡錘状回は、人の顔の識別が難しくなる「相貌(そうぼう)失認」と呼ばれる障害に関与しています。

ASDの脳は上側頭回、紡錘状回の機能低下により、の認識が難しい、アイコンタクトなど表情によるコミュニケーションが難しいと言われています。

偏桃体の機能低下

偏桃体(へんとうたい)は大脳辺縁系のひとつで、自分の感情の認知、恐怖・不快感など基本的な情動のコントロールしており、社会性行動に関与しています。

偏桃体の機能が低下すると、人の顔を認知できても、表情、特に恐れの表情を読み取ることが難しくなり、恐怖に対するイメージが欠損すると言われています。

前頭前野の機能低下

前頭前野はヒトで最もよく発達した脳部位であり、ワーキングメモリー、反応抑制、行動の切り替え、プランニング、推論などの認知・実行機能を担っています。

ASDの脳は前頭前野の機能が低いために、ASDの特性である「心の理論」と呼ばれる能力の発達の遅れにつながっていると考えられてます。

「心の理論」とは

他者の心のはたらき(状態、目的、思考など)を理解し、行動を予測する心の機能のことです。「心の理論」を調べるために有名なテストのひとつを紹介します。

【サリーとアン課題】

  1. サリーとアンが、部屋で一緒に遊んでいる。
  2. サリーはボールをかごの中に入れて、部屋を出ていく。
  3. サリーがいない間に、アンがボールを別の箱の中に移す。
  4. サリーが部屋に戻ってくる。

これらの場面を伝えたうえで、「サリーはボールを取り出すために、最初にどこを探しますか?」と尋ねます。

正解は「かごの中」ですが、心の理論の発達が遅れていると「箱」と答えます。4~7歳にかけて正解率が上昇すると言われています。

縫線核の機能低下

2018年3月に理化学研究所より発表された、興味深い研究を紹介します。

  • ASDは15番染色体の遺伝情報に変異のある例が知られている。
  • マウスに15番染色体の遺伝情報を生じさせ、ASDに似た症状を持ったマウスをつくった。
  • そのマウスの脳は「縫線核(ほうせんかく)」の機能低下を認めた。
  • 「縫線核」とは、脳幹にある脳の部位で、「セロトニン」というドパミン・ノルアドレナリンを制御し、不安な気持ちを落ち着かせる神経伝達物質を作っている。
  • 「セロトニン」の減少は、ASDの発症に関与している可能性がある。

この研究はマウスの報告ですが、ヒトの場合でも同じような現象が起こっているのではないかと考えられます。

参考資料>>>「自閉スペクトラム症」解明進む…セロトニン減少、発症に関与か : 読売新聞)

反復行動と脳機能

ASDの特徴のひとつに、手をひらひらさせる、指をはじくといった反復行動や、毎日同じ時間に同じ行動をする常同行動があります。これらの行動とASDの脳機能との関連については、現段階でほとんど解明されていません。

しかし、認知症のひとつである「前頭側頭型認知症」でも同じような行動が見られ、少子高齢化の後押しにより、積極的に研究が進められています。

ASDも認知症も同じ脳科学の分野なので、今後の解明に期待しましょう。

注意欠陥/多動性障害(ADHD)の脳

ADHDは

  • 多動・衝動性
  • 不注意

といった特徴があります。

これらの行動の理由となる、ADHDの具体的な脳の部位と機能をみていきましょう!

前頭葉(前頭前野)の機能低下

前頭葉は感覚・記憶(ワーキングメモリー)・思考・感情・集中力をつかさどっており、物事を順序立てていったり、あるいは同時並行で仕事をするときに働きます。

前頭葉にある前頭前野は脳の司令塔であり、情報を処理して、状況や場面に適切な行動や反応を示したり、感情・行動をコントロールする実行機能に関与しています。

ADHDはこの機能に障害があり、不注意・集中力が続かない、がまんするといった行動抑制が難しい、感情のコントロールができない、ワーキングメモリーの低下が表れます。

特に、前頭前野の機能が低下すると、相手の感情を読み取る、計画を立ててこう行動するのが苦手です。ADHDの前頭前野の血流量は平均値よりも少ないと報告されています。

側坐核・線条体の機能低下

側坐核(そくざかく)・線条体(せんじょうたい)は「報酬系機能」に関与し、やる気や達成感の感情の働きをしています。

ADHDの脳は側坐核・線条体の機能が低下し「報酬系機能」の働きが弱くなることで、やる気や達成感を感じにくく、さらなる刺激を求めるために多動・衝動・不注意につながると言われています。

脳のさまざまな領域が関与しているため、「報酬系機能」の回路は非常に複雑となっています。

尾状核の機能の低下

尾状核(びじょうかく)は大脳基底核に位置する神経核で、人の運動や行動をスムーズにするための調整する機能があります。

この機能が弱いと、スムーズな行動や動作の切り替えが難しく、ADHDでは尾状核の容積が小さいことがわかっています。

海馬や偏桃体を含む辺縁系の機能低下

海馬(かいば)は目・耳・鼻からの記憶の形成を、偏桃体(へんとうたい)は恐怖・不安・悲しみ・喜びといった情動の発現に関与しています。

ドーパミン、ノルアドレナリンの減少

ADHDではドーパミン、ノルアドレナリンといった神経伝達物質が減少していると言われています。

ADHD治療薬として、コンサータ(主にドーパミンの活性化)ストラテラ(主にノルアドレナリンの活性化)、2017年新薬発売のインチュニブ(ドーパミンやノルアドレナリンといった神経伝達物質の受容シナプス調整)が使われているのはこのためですね。

ドーパミン:快く感じる脳内報酬系の活性化を促しています。

ノルアドレナリン:交感神経に作用しています。ストレスホルモンのひとつです。

発達障害にみられる「海馬回旋遅延症」とは?

脳内科医である加藤俊徳(かとう としのり)医師による、興味深い記事を紹介します。

  • 海馬は記憶や空間学習能力に関わる部位と言われている。
  • 海馬は胎児から成人まで、ゆっくり回旋しながら成長する。
  • ADHD、LD(限局性学習障害)、ASDを疑われた方の脳画像の90%に海馬回旋の遅れを認め、これを「海馬回旋遅延症(かいばかいせんちえんしょう)」と名付けた。

加藤医師は、海馬の周辺の脳を成長させていくことが「海馬回旋遅滞症」をカバーする非常に有効なアプローチだと考え、「脳番地」という概念で鍛える方法を紹介しています。

加藤医師は加藤プラチナクリニック院長や「株式会社 脳の学校」の代表を務め、発達脳科学の専門家でもあります。今後の活躍に期待しましょう!

参考:株式会社 脳の学校公式HP「海馬のMRI画像診断」

発達障害と脳画像

脳画像からは発達障害が診断できない?

発達障害には「脳機能の低下」があることが分かっていますが、MRI、脳波検査、などの脳機能画像からは診断ができません。いくつか特徴的な知見を得られていますが、それは脳の機能の平均値が統計的に低いという程度であり、正常な脳と明確に分けることはできません。発達障害の脳は、脳腫瘍などといった器質的な検査所見がないのです。

ではどうやって診断するかというと、DSM-5(アメリカ「精神疾患の診断と統計マニュアル」)といって、発達障害を含むさまざまな精神疾患の診断基準が書かれているマニュアルが使われています。

その疾患の特徴的な症状を複数提示し、そのいくつ以上が該当すれば診断がつくという流れとなっています。

なぜMRIをするの?

脳画像から診断をしないのであれば、MRIはいらないのではないでしょうか?MRIをする理由は、脳腫瘍などといった脳の病気も発達障害と似たような症状が出ることがあるため、原因となる疾患がほかにないか調べるためです。MRIで脳の病気がなければ、発達障害が疑われるとなります。

MRIは長時間狭い空間で横になる必要があるため、薬を使って眠らせる場合もあるようです。ここまでしてMRIをする価値があるのか、疑問視される医師の先生もいるようです。

痙攣やてんかん発作が疑われる場合、脳波検査を行うこともあります。脳の波形を撮影することで、平均的な脳波よりも高い異常波を見つけるために行われます。

脳の研究は日進月歩

脳画像ひとつとっても、

  • MRI
  • CT
  • IMP-SPECT(脳血流シンチグラフィー)
  • PET

他にもたくさんの種類の脳画像があります。色んな手段を用いて、脳科学の研究は日進月歩で、今までわからなかったことが解明されるようになりました。

脳科学は疾患・治療の他にも、脳トレやコーチング、さらにはAI(人工知能)にも関与しており、時代とともに、私たちの生活に欠かせない存在になっています。脳科学は精神医学、心理学とも深く関係しています。脳科学が進むことで、脳からみた発達障害について、さらに解明が進むことを期待しましょう!

まとめ

  • 発達障害は、脳機能の障害が原因である。
  • ASDは、側頭葉、偏桃体、前頭前野、縫線核の機能が低いことで、対人関係やコミュニケーション障害へ影響している可能性がある。
  • ADHDは、前頭前野、側坐核、線条体、尾状核、海馬、偏桃体の機能が低いことで、多動・衝動性、不注意に影響していると考えられる。
  • MRIなどの脳画像からは診断できない。
  • 脳科学は日進月歩で解明されているため、今後の脳科学に乞うご期待!