ワーキングメモリとは

ワーキングメモリとは、認知心理学で用いられる構成概念のことです。
作業記憶、作動記憶などと呼ばれることもあります。

脳の前頭前野の働きの一つで、作業や動作に必要な情報を一時的に記憶、処理する能力のことで、人間の行動や判断に影響しているとされています。

ワーキングメモリの役割とは、脳に入ってきた情報を記録し、状況に応じてどの情報に対応すべきかを整理して不要となる情報は削除することです。
この働きによって、瞬時に適切な判断を下すことあできます。

会話一つとっても、相手の話を一時的に覚える(記憶)、話の内容から相手の言いたいことを汲み取る(整理)、話の展開によってそれ以前の情報を忘れる(削除)という作業を無意識下に行っています。
私たちは生活の中で、会話以外にも読み書きや運動、学習など様々な活動において情報処理の働きを駆使しています。

整理した情報の中で不要なものは速やかに削除されますが、今後も必要と思われるものは長期記憶の分野に移動させられます。
このワーキングメモリの大きさは人それぞれ異なります。

ワーキングメモリが大きいと情報を処理することを得意に感じますが、小さい人は処理できる情報が少なくなります。
自分のワーキングメモリよりも多い量の情報が入るとうまく処理できず必要な情報まで削除してしまったりするのです。

ワーキングメモリの機能は成長と共に発達しますが、その度合いにも個人差が生まれます。

ワーキングメモリの役割と低下した際の困りごと

ワーキングメモリの一時的な記憶機能により、人間の判断や行動が成り立っています。
では、この働きが弱い場合どんな困難が生じるのでしょうか。

記憶が苦手なケース

情報を脳内に留めておくことが難しいと、必要な情報を忘れやすくなります。
学校生活においては先生の指示を忘れてしまったり、板書をノートに写すのが遅れたりします。
他に、忘れ物やなくし物が多くなることもあります。

学習においても、読んだ文の内容を覚えることができず文章を理解することが困難に感じる、頭に浮かんだ内容をすぐに忘れてしまい文章を書くことが難しいなど困りごとが生じます。

整理が苦手なケース

情報の整理が苦手な場合、脳に入ってきた情報のうち何に注意すべきか分からず混乱したり場違いな言動をしてしまうことがあります。
例えば会話が成り立たなくなる、体を動かす順番が分からず運動が苦手になるなどの困りごとが起こることがあります。

記憶の削除が苦手なケース

記憶の削除が難しい場合、新しい情報を取り入れることができず、行動の切り替えや連続的な会話が困難になります。
学校をはじめとする私生活においては、一つの授業が終わっても次の科目に移ろうとしない、終わった内容の会話を続ける、などの困りごとが見られます。

ここに挙げた行動は一例のため、ワーキングメモリの機能が弱いからといって必ずしも困りごとが生じるわけではありません。
ただ、困りごとの原因がワーキングメモリ機能によるものだと気付かれず叱られることで子どもの自信喪失につながることもあります。

なおこれらの困りごとは、ワーキングメモリによるものだけでなく感覚過敏、鈍麻、疲労感などの身体的問題や不安や抑うつなど心理的問題から表れることもあります。