今日も皆さんと一緒に発達障害等に関する学びや情報交換の場所になることを願って投稿させて頂きます。
今日のトピックスは「物忘れ」についてです。
「また忘れたの?」と思ったことはありませんか?たまになら仕方ないなと思いますが、毎日のように何かを忘れる。
一緒にチェックしても次の日にその準備したカバンを忘れるなんてことも・・・。
あまりにも物忘れを多くしてしまうのは「発達障害」が関係しているかもしれません。
物忘れが関係しているのは発達障害のなかでも「ADHD」と言われています。
物忘れは対策次第では減らすことができます。
この記事を読まないと物忘れが減ることは難しいかもしれませんが、読むことでなにか解決のための糸口になるかもしれませんので、よかったらご覧ください。
目次
・物忘れ対策の具体例3選
「絶対に忘れない!」と心に誓っても、忘れてしまうものは忘れてしまいます。
「また忘れたのあれほど言ったのに・・・」と怒ってしまいたくなると思いますが、それは逆効果です。
この後の記事にある心理社会的治療のところでもお伝えしていますが、「できないこと」ではなく「できたこと」この場合は、忘れものをしなかったことをほめられるといいですね。
そのためには工夫が必要になります。
①チェックリストの活用
時間割の沿ってチャックリストをつくることで、何を準備して何を準備していないか確認することができるため、忘れものを減らすことができます。
ですが、そもそもそのチェックリストをみるということ自体忘れてしまうことがあると思います。そんな時に役立つ方法が
「if then(イフ ゼン)ルール」ですこれは、「ご飯を食べたら歯を磨く」のように○○をしたら△△をするといった習慣にするために有効なルールで、
ifは場所・状況・thenは行動をさします。このセットを上手につけることで「チェックリストをみて準備をする」ということも習慣化しやすくなります。
例えば、「お風呂から上がったら(if)お母さんと一緒に明日の準備をする(then)」
「授業が終わって学校から帰る前(if)にチェックリストをみながら家に持ち帰るものをしまう(then)」
ポイントは、ifの部分をなるべく具体的にすることです。
最初は難しいかもしれませんが、歯磨きを磨くようにチェックすることも習慣化できれば忘れ物も激減するはずです。
また、そのチェックリストはなくさないようにランドセルのふたの裏につけるなど貼る場所も工夫してみましょう。
②ホワイトボードを使う
ADHDの特徴に「ワーキングメモリ」の働きが弱い というものがあります。
ワーキングメモリとは、「言われたことをすぐ忘れる」「一度に二つ以上のことを同時並行で作業することが苦手」というようにさぎょうや動作に必要な情報を一時的に記憶・処置する能力です。
ですので、忘れものをしないように口頭で伝えても忘れてしまいがちになってしまいます。
ですが、ADHDの特徴に視覚優位という特性があります。その特性を生かすことで忘れ物を減らすことできます。
ホワイトボードに必要な物をイラストで書いて説明する。これによって視覚的に必要なものがわかるため、理解しやすくなります。
イラストが苦手でしたら、少し面倒かもしれませんがインターネットにある既存のイラストをコピーしてマグネットに貼って、そのマグネットをホワイトボードに貼って説明するというやり方もいいかもしれません。
③カレンダーのリマインダー機能を使う
高校生くらい方ですと、スマホを持っていることが多いと思います。スマホユーザーにおすすめなのが「カレンダーのリマインダー機能を使う」です。これは、私自身が試して一番忘れ物が減った方法です。
メモをとるということはできてもそのメモ帳をなくしたり、みることを忘れるために忘れ物をするということがあります。
しかし、スマホは毎日みるためスマホのカレンダーのリマインダーに必要なものをメモしておく。これで、時間になると準備するものを教えてくれるのでその時にさっと準備することできます。
これも、①でお伝えした「if thenルール」と組み合わせることでカレンダーのリマインダー機能にメモする&リマインダーを確認することが習慣にできると思いますので、試してみてはいかがでしょうか?
「物忘れの対策はわかったけど、そもそもADHDの原因や治療ってないの?」と思われた方もいらっしゃると思います。そうですよね。根本的な原因を解決できれば、物忘れ以外の困りごとも解決できそうですよね。
そんな方に次の記事でADHDについてお伝えしますので、よかったら参考にしてみてくださいね。
発達障害とは
自閉スペクトラム症、限局性学習障害、注意欠如・多動症などの総称で、脳機能に関連する障害が通常、低年齢で発現するもののことです。
発達障害には、いくつか種類があります。(DSM-5)
- 自閉スペクトラム症(ASD)
- 限局性学習症(SLD)
- 注意欠如・多動症(AD/HD)
「いくつか種類があるんだ。でも、物忘れが多いのって何が原因なの?」と思いますよね。物忘れが多いのが特徴的なのはこの中の3.になります。
ここでは、3.「注意欠如・多動症(AD/HD)」について解説していきます。
注意欠如・多動症(AD/HD)とは(特徴・症状)
特徴的な症状として、年齢に見合わない「不注意さ」
好きなこと以外に対する集中力がなくほとんど関心や興味を示さない「多動性」
「思いついたことをよく考えずに即座に行動してしまう「衝動性」があります
操作的診断基準では「不注意」として
- 綿密に注意ができない
- 注意の持続が困難である
- 話しかけられても聞いていないかのよう
- 指示に従えない
- 課題や活動の順序立てられない
- 精神的努力の持続が困難である
- 必要なものをよくなくす
- 刺激により注意がそらされる
- 毎日の活動を忘れる
などの項目のうち6項目以上が当てはまります
「多動」としては
- 手足をもじもじさせ、キョロキョロする(非移動性の多動)
- 授業中の離席(移動性の多動)
- 走り回り、高いところにのぼる
- 静かに遊べない
- じっとしてられない
- しゃべりすぎる
衝動性としては
- 質問が終わる前に答える
- 順番がまてない
- 他人の行動に割り込み邪魔する
などがあげられます。これらの9項目のうち6項目を6ヶ月以上満たしていると、多動ー衝動性に当てはまります。
これらの症状は、家庭、学校、学童保育、診察室などのうち、2か所以上で確認されます。これ以外にも、極端な不器用さになどが認められることもあります。
※上記の項目は診断基準にはなりますが、診断が確定されるわけではありません。専門機関で問診や検査などを行い、他の疾患を含めて評価をしていき最終的な診断が確定されます。また、診断のためのエピソードは本人や保護者の話だけではなく、客観的な資料として、
- 通知表
- 母子手帳
- 学校や保育園の連絡ノート
なども参考にすることもありますので、専門機関へ行かれる際はこれらも準備されるといいです。
例えば、こんなお子さんがいたとします。
A君(12歳)は発達上の遅れはありませんでしたが、幼稚園では孤立ぎみでした。小学校入学後も友人は少なく、小学1年生の時に登校のしぶりがみられました。担任の先生の記憶によれば、状況判断が苦手なお子さんでした。
他には、言うべきではないことをとっさ言ってしまうようなことがしばしばみられたり、学校からのお便りは必ずといっていいほど失くします。さらに、毎日のように忘れものをしていました。また、給食の配膳の列に並ぶことも苦手でじっと並んでいられません。
・・・このお子さんの例に限らず、ADHDといっても症状は様々です。また、ADHDだけでなくASDやSLDの特徴も持っている場合も多いのが発達障害の特徴です。
「注意欠如・多動症ってことは、なにか原因があるのかな」と思われた方もいらっしゃると思います。次にその原因について解説していきます。
ADHDの原因
父や兄弟にADHDを認めることも多く、遺伝的素因が注目されています。アメリカでは、染色体異常などの遺伝的検討も最近は進んでいますが、単純な遺伝形態ではなく、多遺伝子が関与する遺伝と推測されています。
つまり、現段階ではこれといった詳しい原因がわからないことになりますが、生まれつき脳になんらかの機能異常があったり、出産前後の異常がなんらかの関与をしているとされる場合もあると考えられています。
そのため、主に2つの原因があげられます。
①大脳にある前頭前野の機能調節に偏りがある
前頭前野は、思考・判断・注意・計画・自己抑制・コミュニケーションなどの「人間らしい行動」をするために欠かせない大脳の領域になります。ADHDの方は、この前頭前野の機能調節に偏りが生じることによって「不注意」「多動」「衝動」といった特徴が現れると考えられています。
②脳内の神経伝達物質が不足している
人間の神経細胞は木の枝のようにはりめぐらされています。刺激や情報はその枝を伝っていきますが、その橋渡し役になるのが神経伝達物質です。その橋渡し役の神経伝達物質の「ノルアドレナリン」や「ドーパミン」などの意欲や興奮に関わるもの、「セロトニン」などの抑制に関わるものがあります。ADHDの方は、この神経伝達物質の量が少ないことが原因で、正常に情報が伝えきれていないのではないかと考えられています。
「うーん・・・脳の機能障害が原因ってことは、何か治療方法がありそうだけど?」と思われた方もいらっしゃると思います。次にそんなADHDの治療について解説していきます。
ADHDの治療について
治療の基本はADHDの子どもたちが自分の特徴を理解し、状況にあった適切な行動がとれるようになることです。そのためには、①心理社会的治療と②薬物療法の2つのアプローチがあります。
①心理社会的治療
・環境調整
- 授業に集中できないようなら席を一番前にする
- 時間割に沿って学校に持っていくものをリスト化して忘れものがないように親子でチェックする
- 周囲がADHDの困難に気づいて、本人を不当にったり、傷つけないようにする。
- 多くのADHDの子がLDの要素を持っているいることを考慮して、短く、はっきりとわかりやすく説明する
など本人の困難さにそって、生活しやすいように周りの環境を工夫することなどが大切です。
・行動療法
ADHDの子どもが陥りがちな悪循環
ADHDの子どもは不注意優勢タイプでは失敗体験が重なることで不安やパニック、はたまたうつ状態になったりしてしまいます。多動症・衝動優勢タイプでは、周囲とのトラブルが多発することで最終的に問題行動を起こしてしまうことがあります。
【不注意優勢タイプ】
①失敗体験の積み重ね
・遅刻・忘れもの・整理整頓ができない・不注意・ミス
②失敗をとがめられる
・甘えがあるからできない・やる気が感じられない・能力が低い
③ネガティブな感情
・自信喪失・うまくいってない感じ・トラウマ
④ネガティブな思い込み
・自分はダメな人間・何をやってもうまくいかない
⑤病的な症状
・不安、パニック・うつ状態・学校に適応できない
→①にもどる
例えば、Bさんの場合・・・
先生「Bさん、また遅刻か?それに忘れものまでして!やる気あるのか?」(叱られる)
B「すみません・・・(あーあ、今日も遅刻した上に忘れものしちゃったよ・・・私ってなんでダメなやつなんだ。したくて遅刻も忘れものもしてないのに」(失敗体験・ネガティブな感情・思い込み)
B「私なんかこの世に必要ないやつなんだ!!もう、学校になんか行きたくない」(病的な症状)
【多動・衝動優勢タイプ】
①周囲とのトラブルが多発
・感情が爆発しやすい・後先を考えない言動
②まわりから避けられる、嫌われる
・わがまま・自分勝手・親のしつけが悪い
③ネガティブな感情
・疎外感・他者に対する怒り・開きなおり
④ネガティブな思い込み
・どうせ、自分は嫌われもの・どうせまわりは、分かってくれない
⑤問題行動
・おとなへの反抗、非行、反社会的行動・インターネットやゲームなどへの依存
Cくんの場合
C「お前マジでムカつく!!!」(周囲とのトラブル)
友人D「なんだよ・・・そんなに怒って(もう、Cと関わりたくない)」(周りから避けられる)
・・・しばらくして
C「D一緒に帰ろう!」
D「悪い!今日はEと帰ることにしたんだ」
C「なんでだよ!!Dは俺といつも帰ってただろ?」
D「・・・いや、もうCと一緒にいたくなくて・・・」
C「ふざけるな!あーもういい!」
C「なんだよDといい・・・あーあ、どうせ俺は友達なんていりませんよっと。俺のこと分かってくれるのはこのゲームだけだ」(ネガティブな感情・思い込み)
その後・・・
母親「C!そんなところに引きこもってないで、学校行きなさい!」
C「うるさいな!!ほっといてくれよ!!」(問題行動)
BさんやCくんのように悪循環に陥らないために、できることが行動療法があります。
・行動療法
実は、ADHDの子どもは注目されるのが好きです。その特性を生かすことで行動が変わってきます。
注目された行動は増え、注目されない行動は減る
そのため、周囲は良いと思う行動を積極的にほめて(注目)いくことが大切になります。
その、良いと思う行動につなげるためには、きっかけが必要になります。きっかけを意図的につくることを意識してみるといいです。
例えば、弟と遊んでしまって勉強ができないときには、弟がお風呂に入っている時に勉強をすすめてみる。その時に一緒に勉強しようと注目する。できたらほめるというように工夫次第で今までできなかったことがだんだんにできるようになってきます。
それに関連してペアレントトレーニングという治療もあります。
・ペアレントトレーニング
ペアレントトレーニングでは・「行動」に注目し、「行動」を好ましい・増やしたい行動、困った・減らしたい行動の3つに分類し、分類した「行動」への対応スキルの習得を目指します。
ペアレントトレーニングに関してはこちらの記事に詳しく書いてありますので、よかったら参考にされてくださいね。
・ソーシャルスキルトレーニング(SST)
- 学校で友達や先生に朝会ったらあいさつをする。
- クラス替えをして初めて知り合った友達に自己紹介をする。
- 先生が話していることにわりこまず、最後まで話を聞く。
- 友達から本を貸してもらったら「ありがとう」と言える。
- 今の感情を言葉で表現できる。
などなどソーシャルスキルとは、人との関わりのなかで上手に付き合っていくために欠かせないスキルのことをいいます。
そんな「ソーシャルスキル」を身につけることが、難しいのが発達障害の子どもたちの特徴でもあります。
しかし、トレーニング次第でソーシャルスキルを身につけることもできます。
その方法は・・・
教示 | そのスキルがなぜ必要か、そのスキルが身についているとどのように役立つかを言葉や絵カードなどを用いて説明して教える。 |
モデリング | 手本となる他者のふるまい(スキル)をみせて学んでもらう。また、不適切なふるまいをみせてそのどこがいけないかを考えてもらう。 |
リハーサル | スキルを先生や友達を相手にして実際に練習をしてみる。主にロールプレイングの手法が用いられる。 |
フィードバック | 行動や反応を振り返り、それが適切であったらほめて不適切であれば修正の指示をする。 |
般化 | 教えたスキルが指導場面以外どのような場面(人、時、場所)にでも行えるようにする。 |
例えば、私たちも資格を取得したいと思い勉強したとします。そこで「ここができない」と苦手を知ることでそこを克服しようとすると思いますが、それだけでは自分が全然知識がついていないみたいでやる気がなくなりますよね。
ですが、自分はここが得意でここのことなら任せて!といった分野を認識することで自信にもなりますね。
そのため、ソーシャルスキルトレーニングでは「できない」だけでなく「できる」にも焦点をあてて「自己理解」できる ようにすることも必要です。
さらに、ソーシャルスキルトレーニングを行ううえで、大切なことは「子ども自身がソーシャルスキルを身につけたい」と意欲を持つことです。
ソーシャルスキルが身につくことで、苦手や困っていることが解決できると分かることができれば、意欲的になれますね。
苦手が克服できれば、自信にもなるはずですのでソーシャルスキルトレーニングをとりいれてみてはいかがでしょうか。
↓こちらの記事では、ソーシャルスキルトレーニングの内容や日常生活でのとりいれ方について紹介されています。よかったら参考にしてみてくださいね。
②薬物療法
ADHDの一部の例では薬物の有用性も知られています。
中枢神経刺激薬が多動や集中力の改善に一時的に有効なことが知られています。
具体的には「メチルフェニデート徐放剤」(商品名・コンサータ)が大部分となります。
「メチルフェニデート徐放剤」の著明な症状の改善は30%、軽度の改善を含めると70%近くに有効です。
・・・これを聞いて「え!!?そんなに効果があるかもしれないなら、この薬を飲めば解決できるのでは?」と思いますよね。ですが、薬なので当然副作用もあります。
- 食欲低下・不眠・衝動性の亢進・チック症状の出現などが知られています。
- 思春期以降では、幻覚・妄想などの精神症状に注意する必要もあります。
他にもアセモキセチン(商品名・ストラテラ)などの薬があります。
あくまでも薬物療法は、ADHDの子どもが自分自身をコントロールできるようにする手助けです。ですので、最終的には薬に頼らず「自分はやればできる」というように自分を認めて自信が持てて、自分で行動がコントロールできるようになることが目標です。
治療に関しては専門機関に相談されることをおすすめいたします。そのなかでも特におすすめなのが療育です。今回紹介させていただいたソーシャルスキルトレーニングや行動療法などをとりいれています。
まとめ
多すぎる物忘れは、ADHDが原因かもしれません。ADHDの方は物忘れをはじめとした困難が多いですが対策次第で困難を少なくすることができます。
専門機関に相談することも解決のきっかけになりますが、物忘れは工夫次第で減らすことができますので自分に合った方法を探して試してみてはいかがでしょうか?
参考文献:こころの医学事典