自閉症スペクトラムやADHD、チック障害など様々な発達障害があり、その原因は親の教育のしつけが悪いとされていた時代もありました。ですが、発達障害は生まれつきの脳の機能異常が要因であると解明されるようになりその症状は幼児のころから現れることがほとんどです。
脳の機能異常じゃどうしようもないと落胆してしまうかもしれませんが、そういった要因がわかっているからこそ、脳の機能異常をカバーできる発達障害クスリがあることをご存じでしょうか?
クスリと聞くとなんだか難しくてとっつきにくいイメージがあると思います。看護師である私自身もクスリを覚えるのは正直苦手なのですが、今回は発達障害の代表的なクスリやポイントをいくつかご紹介してます。
目次
発達障害のクスリはどんなものがある?その期待できる効果とは?
クスリと聞いて思い浮かぶのは「病気によって困っている症状を治したいから飲むもの」だと思います。例えば、風邪をひいて熱や咳がひどい時その症状を治したい・少しでも楽になりたい為にクスリを飲むことを選択しますよね。
しかし発達障害は決して病気ではありません。
なのにクスリ?と疑問が浮かぶかもしれませんが、発達障害による症状で悩んだり、生活のしづらさを感じることは、病気になったと同じようなものです。
むしろ病気よりも長期的かつ日常的に発達障害の症状と付き合わなければならず、発達障害のクスリはそうした症状による悩みを少しでも改善できる効果を期待して内服します。
発達障害のクスリが必要なのはどんなんとき?
発達障害のクスリで症状を改善できる可能性を話しましたが、発達障害の子どもの治療はクスリが第一選択ではないことを説明しておきます。
大前提として周囲の理解や環境調整・しつけや教育が何よりも大切です。まずはその子に合わせた関わりや対策をして、それでも家庭や学校などで問題行動が目立ってしまう場合にクスリを使用したり、発達障害+精神疾患がある場合などに薬物療法を行う場合があります。
発達障害では感情のコントロールをすることが苦手であったり、ちょっとした刺激へ過剰な反応を示したり、落ち着きがないなどの多動行動が目立つなどその障害によってさまざまな特徴があります。
前述したように発達障害を取り巻く環境や関わりによって問題行動は大きく異なってきますが、それでも抑えられないときなど、それぞれの障害に合わせたクスリを紹介していきたいと思います。
自閉症スペクトラム障害のクスリ
自閉症スペクトラム障害はコミュニケーション障害から対人関係を苦手とし、反復的な興味や関心、つまりパターン化した行動などが特徴的な中核症状を持っています。
また、他の発達障害や精神障害などを同時に合わせもっていることが多いと言われ、これに伴いかんしゃく持ちで攻撃的な一面があったり、自傷行為などの問題行動を起こしてしまうこともあります。
こうした易刺激性(ささいなことがきっかけで不機嫌な態度になってしまうこと)をはじめとする問題行動により、周りと馴染めなず生活のしづらさも感じると、学校に行けなくなったりいじめに繋がってしまう可能性もあり、二次的な問題や障害を抱えるケースも少なくないはずです。そんな時に頼れるクスリについてご紹介します。
自閉症スペクトラム障害の問題行動を抑える
自閉症スペクトラム児の易刺激性は、脳内伝達物質であるストレスにも関係しているホルモン「セロトニン・ノルアドレナリン・ドーパミン」の分泌異常や代謝トラブルが原因ではないかと言われています。
そして「自閉症に伴う易刺激性」に対し効果が期待できるクスリが『エビリファイ』や『リスパダール』などです。それぞれの作用機序を説明を簡単に説明すると、『エビリファイ』は脳内神経伝達物質であるドーパミンの量を安定化させる作用があり、リスパダールはドーパミンとセロトニンの両方に作用してそれぞれの働きをブロックする作用があります。
そのため自閉症スペクトラムの中核症状(コミュニケーション障害やパターン化した行動)に対する効果は期待できず、あくまでも併存している障害が起こす問題行動に対しての治療となります。
では次に中核症状にも効果が望めるクスリについてご紹介します。
オキシトシンが自閉症の愛情・信頼形成を助ける
オキシトシンというホルモンをご存じでしょうか?妊娠を経験した女性であれば一度は聞いたことがあるはずです。
オキシトシンは脳視床下部で生成され下垂体から分泌されるホルモンで、母乳の分泌や子宮収縮促進などの作用があります。そのため、このオキシトシンは女性特有のホルモンであると思われていましたが、男性でも分泌され愛着や信頼などの感情にも働きかけることが近年の研究でわかってきました。
別名「愛情ホルモン」「幸せホルモン」「抱擁ホルモン」などとも呼ばれており、考えてみれば女性の出産や子育てに大きく関わることからも愛着形成を促すという意味ではその効果が期待できることに納得できますし理に適っていますねよ。
オキシトシンが分泌されるとストレスが緩和して癒される、他人を信頼する気持ちが増し人ともっと関わりたいという意欲も出て社交的になる可能性があります。
このオキシトシンは、発達障害の領域では経鼻スプレーとして投与するようになっていて、実際にオキシトシンスプレーを鼻から噴霧すると表情豊かになり、相手との信頼関係を築きやすくなったという報告があります。
発達障害ADHDのクスリ
ADHDは注意欠陥多動性障害と呼ばれ、読んで字のごとく不注意・多動性・衝動性が特徴的な障害です。ADHDの原因もやはり神経伝達物質であるドーパミンやノルアドレナリンが関与していると言われており、クスリでこれらの働きを正常に戻すことが役割となっています。
しかし、クスリによっては依存性や乱用性の危険性もあり処方できる医師は限られておりその処方方法もとても慎重です。ADHDに有効なクスリが早く飲みたいからと言って、受診してすぐに出せるものではありません。
依存性や乱用性が高いと聞きクスリに対する恐怖心を助長させたかもしれませんが、決められた用法容量できちんと服用すれば問題ないので安心してください。
ADHDのクスリ「コンサータ」
ドーパミンやノルアドレナリンを増やす中枢神経系刺激薬として位置づけられ、注意力を高めたり衝動性や落ち着きのなさを改善する効果があります。
コンサータの処方は登録医でなければできず、受取には処方箋のほかに「身分証明書」と「患者カード」というものが必要になります。身分証明書はマイナンバーや保険証、運転免許証などの一般的なもので良く、患者カードは医療機関から発行されることになっています。
代表的な副作用では、食欲低下、体重減少、頭痛、気持ちの悪さ、不眠などがあります。また、こういったクスリの副作用が強まる可能性があることから、大人の方はアルコールはもちろん、アルコールを含む飲食物も避けることが望ましいです。
コンサータの効果が現れるのは約1週間と早く、作用時間は約12時間となっており、その時間を超えるとわかりやすく集中力が切れてしまうこともあるようです。
ADHDのクスリ「ストラテラ」
ストラテラはドーパミンやアドレナリンの再取り込みを阻害し両者を活性化させるクスリで、主にノルアドレナリンに作用の活性化を促します。
カプセルと液剤がありカプセルや錠剤を上手に飲めない・嫌う小さな子どもさんでも飲みやすいです。副作用が軽く、眠気や悪心による食欲低下、頭痛などがありますが、これらの症状は数日で治まることが多いです。
また、他のクスリに比べ乱用性や依存性は少なく効果が現れるまでに約6~8週間かかりますが、効果の持続時間は朝と夕方の内服で24時間続きます。
ADHDのクスリ「インチュニブ」
インチュニブはドーパミンやノルアドレナリンに作用するのではなく、これらを受け取る側のシナプスを調整することで脳内の情報伝達を増やす作用があり、非中枢刺激薬として位置づけられています。
こちらも注意力を高め落ち着きを取り戻す効果があります。服用開始から約1~2週間で効果が現れ1日1回の内服でもその効果は24時間続くとされています。
副作用は血圧低下や眠気で心臓に病気がある方には適応が難しいです。とくに心室ブロック(第2度、第3度)がある方は服用できないことになっています。その他には徐脈やめまい・立ちくらみ、頭が痛くなったり、ぼーっとする症状がでることがあります。
チック症
チックは素早い同じ動きを繰り返し、不随意運動つまり本人の意識とは別に勝手に体が動いてしまう、例えばまばたきや顔をしかめる、急に頭を振ったり首を動かす、ぶつぶつつ呟いたり鼻をならす、咳払いをするなどチックの種類によって症状は様々です。
これらは数分程度であれば我慢できることもありますが、強い意志と努力を要するためとても大変です。
チックを自分でコントロールしようとするのは困難で精神的なストレスも伴うと言われています。そのような辛さを助けるのがこれから以下のクスリです。
定型抗精神病薬である『ハロペリドール』『リスパダール』自閉症スペクトラムで紹介した『エビリファイ』なども副作用が少なく症状の改善があったと報告されています。
副作用としては筋肉のこわばりやパーキンソニズム、遅発性ジスキネジアなどがありますが、チックの治療で処方される量はとても少ない量なのでこういった副作用が出ることはあまりないです。
発達障害+精神障害併存した時のクスリ
自閉症スペクトラム障害の特徴であるコミュニケーション障害から学校や社会に馴染めなかったり仕事に適応できずに苦しんでいると「うつ病」になってしまうこともしばしばあります。もちろん自閉症だけでなく、ADHDやチックなど発達障害でも同じことが言えます。
他の人に比べいわゆる「空気を読む」ことが苦手でも、きちんと感じる心を持ちその感受性はかえって他の人より高く、こだわりが強いとわかっていながらも変えられない自分にジレンマを持っている、などストレスが多いのです。
うつ病を疑い心療内科を受診し実は発達障害が根底にあったという場合もあり、うつ病と発達障害はとても関連深いものです。これはうつ病だけでなく「双極性障害」や「不安障害」なども当てはまります。
『SSRI』『SNRI』『三環系抗うつ薬』『気分安定薬』
そうなった場合は発達障害のクスリと抗精神病薬、『SSRI』『SNRI』『三環系抗うつ薬』『気分安定薬』などを医師の診断と処方の元内服していきます。
『SSRI』は「選択的セロトニン再取り込み阻害薬」、『SNRI』は「セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬」の略となり、うつ病のメカニズムとしてもセロトニンやノルアドレナリン、ドーパミンなどの活性化が低下しているため発症するという仮説があるんです。
睡眠障害
また、発達障害では睡眠障害も悩まされる一つの障害となり、大人がなるイメージがありますが、実は年齢関係なく発達障害の子どもも同じ問題を抱えていることがあり一般児童に比べ2倍以上であるとも言われています。
その理由は解明されていませんが、おそらく発達障害が原因であると言われている神経伝達物質が睡眠や覚醒にも大きく関与しているためでしょう。それに加え前述したようにストレスや不安を抱えていることも、不眠に繋がりやすい理由の一つであると考えられます。
睡眠障害を改善するには、やはり生活リズムを整えることが第一です。しっかりとご飯を食べて日中は動いて夜は早めに布団へ入る生活を心がけ、それでも眠れないときはあまり我慢をせず、睡眠導入剤に頼ってみるのも大切。健康な体と心を維持するのに睡眠は絶対に欠かせないのです。
まとめ
発達障害の第一治療はやはり周囲の理解や環境調整・子どもであればしつけや教育がとても大事になってきます。クスリはあくまでも補助にすぎず主役ではありません。クスリを飲めば悩んでいる症状が必ず治るというわけではないんですね。
また、飲み方にも注意しなければ期待する効果を得られないだけでなく、副作用が強く出たり依存傾向になってしまうなど、やはりマイナス的な一面があることも否定できません。
まずは身の回りの環境を整え障害と向き合いながら、主治医とよく相談し正しい用法・用量を守って困っている症状を抑えましょう。そしてクスリの力で少しでも生活しやすい日々を過ごせることを願います。